神戸地方裁判所 平成7年(行ウ)5号 判決
原告
畑司郎(X1)
同
後藤昌三(X2)
同
都志孝子(X3)
右三名訴訟代理人弁護士
井上善雄
被告
(洲本市長) 中川啓一(Y1)
同
(洲本市助役) 渡邊郁夫(Y2)
同
(洲本市助役) 森本順也(Y3)
同
(洲本市財政課長) 斉藤晴久(Y4)
同
(洲本市財政課用度係長) 河野昇(Y5)
右被告ら五名参加人
洲本市長 中川啓一
右被告ら五名及び参加人訴訟代理人弁護士
俵正市
同
寺内則雄
被告
久米石油株式会社 (Y6)
右代表者代表取締役
久米皓資
右訴訟代理人弁護士
村林昌二
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 争点一について
本件訴訟は、法二四二条の二第一項四号後段に規定する「怠る事実に係る相手方」に対する損害賠償請求訴訟と解されるところ、この訴訟は、同条同項同号前段の「当該職員」に対する請求と異なり、被告適格について何ら限定もないうえ、原告らは、被告五名が被告久米石油との共同不法行為により市に対し損害賠償義務を負っていると主張しているから、被告中川、同河野は「怠る事実に係る相手方」に該当するというべきである。
二 争点二について
1 当事者間に争いがない事実及び〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
2(一) 市は、平成五年四月に市ビジョン委員会の一つとして「洲本市のゴミを考える会」を発足させ、ごみ袋の指定化について検討を重ねてきた。同年一〇月には、右考える会が指定化の答申を行い、三月の定例市議会では、この答申を受けて指定ごみ袋の購入についての予算案が議決され、七月一日にごみ袋の指定化を実施することが正式に決定された。
(二) 右予算案の議決を受けて、事業担当課(原課)である環境整備課課長は、四月五日、本件ごみ袋購入に関し「請負工事入札、契約依頼書」に本件ごみ袋の仕様書を添付のうえ、財政課に提出した。なお、市には物品購入手続に関する規程がなかったことから、右手続は、他の物品購入手続と同様に請負工事に関する市工事施行規程に準拠して行われた。
(三) 右依頼書の提出を受けた財政課は、入札方法の検討を行った。そして、本件ごみ袋の納入期限が五月三〇日とされているところ、市入札審査会検討委員会の検討結果及び市の過去の実例によると、一般競争入札には三五日の日数を要し、一般競争入札によると右納入期限に間に合わないことや市においては指名競争入札が一般的であることから、本件は、地方自治法施行令(以下「令」という。)一六七条一号が指名競争入札ができる場合として規定する「その性質又は目的が一般競争入札に適しないもの」に当たると判断し、指名競争入札とすることとした。
財政課は、市契約規則一八条により、指名競争入札参加者名簿に登載された者から、本件入札に参加する指名業者の選定を行った。そして、地元業者育成の観点から、右名簿に登載された者のうち、淡路島内の業者である被告久米石油、訴外A社、同B社、同C社、同D社の五業者を選定した。
財政課は、本件ごみ袋の購入予算が二三八〇万円であるところ、市決裁規程五条ないし七条によれば、一件一〇〇万円を超え三〇〇〇万円未満の物品の購入は助役専決事項に該当することから、本件入札に関し、「見積合せ及び契約締結伺」を起案して、助役の決裁を受けた。
財政課職員浜岡は、四月一二日、指名した五業者に対して、本件入札に関する「見積書提出依頼通知」を取りに来るよう電話で連絡した。この「見積書提出依頼通知」には、以下のような記載があり、別紙として仕様書二枚が添付されていた。
<省略>
品名又は名称 市指定ごみ袋
(規格・数量) 二九六万枚 別紙仕様書のとおり
見積提出日時 四月一八日午後二時
見積開札場所 市財政課
納入場所 市環境整備課の指示する場所
納入(完了)期限 五月三〇日限り
また、別紙仕様書にも「完成品の納入期限 平成六年五月三〇日」と記載されていた。
(四) 連絡を受けた五業者は、財政課まで出向き、右「見積書提出依頼通知」を受領した。その後、財政課に訴外D社及び同C社から納入期限に関して電話で問い合わせがあった。これに対して財政課職員は、仕様書の通りですとの返答をした。
(五) 財政課は、四月一八日、本件入札を執行した。午後二時に入札の宣言を行い、指名業者の出欠の確認を行った。事前に電話で辞退の申入れのあった訴外B社を除く四業者が出席しており、それぞれ財政課カウンターに見積書を提出し、財政課前の廊下で待機した。財政課では、財政課職員浜岡が見積書を開封し、開札結果表に記入し、これに財政課用度係長である被告河野が立ち会った。入札した四業者の入札金額及び納入期限はそれぞれ以下の通りであった。
<省略>
入札金額 納入期限
訴外A社 二七三四万七四五〇円 五月三〇日
被告久米石油 二一六四万二七五〇円 五月三〇日
訴外D社 二一〇六万七七〇〇円 六月末日
訴外C社 二〇二三万六〇〇〇円 六月三〇日
財政課課長被告斉藤は、廊下で待っている入札参加者を財政課に呼び入れ、開札結果表を示しながら、それぞれの入札金額と納入期限を確認した。その結果、入札価格が一、二番目に低い訴外C社及び同D社は納期までに 納品できないことが明らかになったことから右二業者の入札を無効とし、入札価格が三番目に低い被告久米石油を落札者に決定した。そして、同社に対して、契約を締結するため翌日出頭するよう申し入れた。なお、この結果発表に対して、入札参加者からの質問、意見、苦情等は一切なかった。
(もっとも、原告らは本件入札会場では、環境整備課長の不在を理由に落札者の結果発表はなく、その後電話により被告久米石油が落札者に決定したとの連絡があった旨主張し、〔証拠略〕はこれに副う供述をする。しかし、〔証拠略〕によれば、本件落札者の決定を行うのは財政課であり、環境整備課長の意見を聞く必要はないことが認められるから、〔証拠略〕の前記供述は採用できない。また、〔証拠略〕には、財政課長の不在を理由に落札者の結果発表がなかった旨の記載がある。しかし、右で認定したように財政課長は本件入札に立ち会っているのであるから、これに反する右記載は採用できない。)
(六) 右入札結果に基づき、財政課は、四月一九日、注文者を市とし供給者を被告久米石油とする本件ごみ袋の購入契約を締結し、物品供給契約書を作成した。そして、支出負担行為決定書兼契約締結報告を作成して、助役の決裁を受け、これを予算執行課長である環境整備課長に送付した。以上により、本件ごみ袋購入契約は完了した。
(七) 被告久米石油は、五月一六日、本件ごみ袋の配送計画に関し、市職員及び本件ごみ袋の配送業者である日本通運株式会社淡路営業所(以下「日通」という。)と打合せを行った。本件ごみ袋は、総量で二九六万枚あり、これを一世帯の分量である一六〇枚ずつ一万五〇〇〇世帯分梱包すると、重量で一〇トン車一〇台分もの分量に及んだ。日通の配送期間は、六月一日から二六日までとされていたが、この間、右分量のごみ袋を保管できる場所は、市も日通も被告久米石油も確保できなかった。被告久米石油は、本件ごみ袋の一括納入を受けても保管場所に困ることから、日通の配送計画に沿った生産調整を行うよう本件ごみ袋の生産業者に指示した。
(八) 五月二五日から二九日にわたり、モデル事業として市の一部に本件ごみ袋の配布が行われた。事業担当課である環境整備課は、右配布の際、配布されるごみ袋について、一部抽出の方法により、規格、品質、梱包等の検収を行った。環境整備課は、これに基づき物品納入完了届を作成し、これを財政課に提出して検収及び完了の報告をした。
(九) 原告らは、一二月七日、本件入札及び本件購入契約は被告久米石油に落札させるために仕組まれた違法なものであるとして、洲本市が被った損害の填補を求めて、本件監査請求を行った。
(一〇) 市監査委員は、平成七年一月三一日付けで、原告らの監査請求には理由があるとは認めがたいとの監査結果を出したが、同時に被告久米石油が納入期限である五月三〇日までに本件ごみ袋を完納していない事実を確認し、本件購入契約に基づく違約金の徴収等必要な措置を速やかに取るよう要望した。
(一一) 市は、右監査の結果、被告久米石油が納入期限である五月三〇日まで本件ごみ袋を完納していない事実が明らかになったことから、指名停止基準に基づき、被告久米石油に対して、平成七年二月六日から三月五日まで一か月の指名停止処分を行うと共に、同年二月一四日、本件購入契約の約定に基づき、同被告から違約金二六万二三三〇円を徴収した。
3 (一) 以上認定の事実によれば、本件入札及び本件購入契約は法定の手続きに従って行われており、本件入札及び本件購入契約に原告らが主張するような不法行為が存在するとは認められない。
(二) 原告らは、三者以上の業者が入札に参加することが指名競争入札の要件となっている旨主張する。
しかし、令一六七条の一二第一項は「指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない。」と規定しており、市契約規則もこの規定を受けたものであることに鑑みると、同規則一八条中の「当該入札に参加する者」とは「当該入札に参加させようとする者」を意味し、同規則中の「三人以上」とは指名の要件であるものと考えられる。そして、同規則一九条一項、一三条三号によれば、入札者が一人の場合にはその入札は無効であるとされていることの反対解釈からすれば、入札者が二人以上の入札は有効であるから、指名競争入札は、三社以上の入札がなければ無効であることを前提とする原告らの主張自体失当である。
(三) また、原告らは、本件入札を指名競争入札としたのは、被告久米石油に落札させるためのものであり、一般競争入札によっても右納入期限を遵守することは可能であった旨主張する。しかしながら、前記2(三)で認定したように一般競争入札によったのでは五月三〇日の納入期限を守れないため指名競争入札としたのであり、原告の右主張は行政手続きの実態を全く無視したものである。そして、被告斉藤の供述によれば、財政課では二年間で少なくとも一〇〇〇件以上の入札を行っているところ、このうち一般競争入札を行ったのは、一〇億円以上の工事請負契約の三件のみである事実が認められ、本件入札だけをことさら指名競争入札としたのではないことが明らかであるから、原告らの右主張は採用できない。
(四) 原告らは、被告らが指名業者を恣意的に選定するなどして被告久米石油が落札できるよう本件入札を運営した旨主張する。
しかし、前記2(三)で認定したように、財政課は市契約規則一八条により指名競争入札参加者名簿に登載された者から指名業者を選定し、地元業者育成の観点から、そのうち淡路島内の業者の五業者を選定しており、右選定は法定の手続きに従って形式的に行われていることが認められる。また、訴外B社が事前に辞退するか否か、訴外A社がいくらで入札するか、訴外D社及び同C社が入札に際し納期に期限を付するか否かは、被告らにとって事前に知り得ない事項である。
したがって、原告らの右主張は採用できない。
(五) 原告らは、本件入札及び本件購入契約における被告らの共謀の存在を裏付ける事実として、市財政課職員が訴外D社及び同C社の問い合わせに対して、一部は六月末納入でもかまわない旨返答した事実及び被告久米石油が本件ごみ袋を納入期限の五月三〇日までに納入できなかった事実を挙げる。
しかし、前記2(四)で認定したように市財政課職員が右のように返答した事実は認められない。
また、前記2(七)で認定したように被告久米石油が納入期限を遵守できなかったのは、本件ごみ袋を一度に納入できる保管場所を確保できなかったためであるから、右事実は原告ら主張の共謀の徴表とはなり得ない。
第四 結論
よって、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 下村眞美 桃崎剛)